サイトを公開した日の、夜だった。
2026年7月10日、金曜日。この日、IM Labのサイトが世に出て、最初の記事を公開した。その夜の9時53分、私は普段と違うAIエージェントを試した。試しに使ってみよう、と思った。
出した指示は、この3行。
戦略やプロジェクトの次のステップを考える 特定のAI に依存しない形でREADmdなど、リポジトリ内の設計をお願いします また、AIワーカーの入ることも考えた部署構成も提案お願いします
3分16秒後、完了報告が来た。
3分16秒
成果物は3つあった。README.mdの書き換え。プロジェクト戦略の文書——北極星、90日プラン、検証指標、意思決定のリズム。運用設計の文書——部署構成、AIワーカーの定義、権限と承認のマトリクス。
頼んだものは、全部あった。読めば、中身もまともだった。
そして3つとも、リポジトリのファイルとして直接書き込まれていた。
あとから調べると、痕跡はもう一歩先まで進んでいた。3つのファイルは、gitのステージ——コミットする直前の、準備の席——にまで載せられていた。コミットされていれば、履歴に残るところだった。
早いな、と思った。その反面、実行までしちゃったのか、とも思った。一つのエージェントに依存して使っていて、特定のエージェントに依存しない形で進めて、と依頼していても、こうなってしまうんだ、と思った。
ただ、自分的にはいい発見で、面白かった。
問題は、どこにあったか
指示はした。「リポジトリ内の設計をお願いします」と書いたのは私だ。書き込む場所を制限する言葉は、指示のどこにもなかった。
私の側には、前提が2つあった。AIの出すものは「提案」であって、リポジトリに書き込むのは人間の承認のあと。そして、戦略の文書は正本のリポジトリに置くもので、公開サイトのリポジトリには置かない。
ただ、その前提は、このリポジトリのどこにも書かれていなかった。普段のAI(Claude)との間の、暗黙の了解だった。初めて来たエージェントに、知りようはなかった。
責任はいつも自分にある。そう考えているから、責任をどこに置くか、という視点は、そもそもなかった。ただ、私はいつも通りに指示していた。いつも通りに指示をしても、自分の想定通りに動くように、設計しないといけない。そう思った。
その夜のうちに
成果物を、Claudeに見せて相談した。3つのファイルは同じ夜、リポジトリの外の退避フォルダへ移した。ファイルに残る更新時刻は22時2分。指示から、10分足らずだった。
ステージは取り消した。コミット履歴には、何も残っていない。
そして同じ日のうちに、リポジトリの直下にAGENTS.mdというファイルを置いた。特定のAI製品に依存しない、このリポジトリで働くすべてのAIとの共通契約。条文は、それまでの約束事と、残してあった設計判断の記録から起こした。コミット全体で、増えた行は23行だった。
いつ、そのAIが使えなくなるか。もっとすごいAIが来たときに、乗り換えられるか。その視点がひとつ。もうひとつは、自分では手に負えない数のプロジェクトができたときのこと。同じ契約があるほうが、安心して見ていられる。使える、と思った。
契約の中身
絶対規則は5つ。
承認なしにファイルを作らない・書き換えない・消さない・コミットしない・pushしない。頼まれたスコープの外は、実行せずに「提案: 内容——理由1行」の形で止める。戦略の文書はこのリポジトリに置かない。記事のWhy——動機や感情や判断——はAIが書かない。公開の判断は、常に人間がする。未発表の事業名を出さない。置く数値や日付は、実データだけ。
そして由来の欄に、こう書いた。
2026-07-10、AIエージェントが承認なしにREADME編集と戦略文書2本の作成を行った事象を受けて設置。規則は実際の違反からのみ追加する。
最後の一文は、前の記事と同じ思想だ。複雑さは、必要が証明されてから足す。ルールも、実際の違反からだけ足す。先回りでは増やさない。
それで、あの3ファイルは
捨てていない。退避フォルダに、そのまま置いてある。
読み返すと、妙な話がひとつある。あの文書には、承認のマトリクスが書いてあった。「最終的な責任・判断・公開は人間が担う」とも書いてあった。人間の承認を説く文書が、人間の承認なしに書き込まれていた。
そして中身は、あとで自分が書いた契約と、大きく重なっていた。問題は内容ではなかった。承認を経ない、方法のほうだった。
いいものは取り入れる。それはこの記事のあとのステップとして、査読待ちの棚にある。
完璧なものを作ったと思っても、視点や立場が違えば、完璧ではなくなる。だから、一つの小さな問題も、丁寧に扱っていく。それが自分の理想に近づいていくことなんだと思う。これは、この件に限った話ではないと思う。
分業とは、 自分がやることと、やらないことを、 確認したうえで働くことだ。
